「今月のひとこと」の目次 毎月一回はその時々のトピックスをお送りしています。 2005年 6月 4日 5月 1日 4月 5日 3月 1日 2月 5日 1月 1日
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6月4日
とうとう入梅か、うっとうしい天気になってきました。 連休前にはものすごく暑い日があって、その後はさわやかな日が続いたので、やれやれと思っていましたが、急に蒸し暑くなってきました。

株価もさえず、円も108円から105円ぐらいを行ったり来たりで、波乱のない時期ではありますが、今日の新聞によると、株価収益率はバブル以降最低の17倍になったとの事で、割安と言えば割安なんでしょう。 円が安い状況で外国人の買いが入らないのが不思議ですね。 世の中はキャッシュがジャブジャブで、しかしかつてのような大規模なバブルにはならなくて、ますます不気味な感じです。 少しきっかけがあると何が起こっても不思議ではないでしょう。

と言いながら、失われた10年と言う言葉もあんまり聞かなくなって、しかし本当にバブルがはじけてそれが実態に表れたのが1993年ですから、それから見ても10年は過ぎたという事です。 当時は、じたばたしても始まらんと、3ヶ月ほど何もせずに、旅行に出かけたのですが、戻ってきても何の変化もありませんでした。 3ヶ月のうちに事態は好転するかと思ったのですが、とんでもなくて、それから10年経っても出口は見えない状況ですね。

最近は韓国や中国との摩擦が大きくなって来ています。 日本の対応も下手なんでしょうが、日本の地位の低下と中国の地位のアップがその背景にあるのでしょう。 最近も韓国との間で紛争がおきたばかりで、一人ほくそえんでいるのは北朝鮮だけでしょう。 頼みのアメリカも最近はそっぽを向いたままで、なかなかこっちの思うようには動いてくれないようです。

私が最初に中国に行ったのは、1989年で、天安門事件の前でした。 現在の市内にある虹橋空港が国際線の発着に使われていました。 しかし到着してもバスがあるわけでなく、タクシーがいるわけでなく、自分の知り合いがいないとどうしようも無い状況でした。 現在の国際線の空港のある浦東地区は本当に何も無い原野と言う感じでした。 その後、大きな橋が出来て、高層ビルが建ったり工場が出来たりして、最先端の地区となりました。

その時に感じたのは、都市と言うのもは交通で成り立っている、と言う事で、いつもはそんな事を考えたことが無かったのですが、いざ交通手段がトロリーバスと自転車と他人の自動車だけになると、いざと言うときには歩くしか手が無くて、移動距離はそんなに遠くは行けません。 上海中がダウンタウンと言うか、盛り場と言うか、どこにでも人がいる感じでした。 すこし上海の町を出ると、すぐに田園地帯で、大都市という感じではありませんでした。 現地の中国人曰く、中国は広いが上海は狭い。

当時の上海の町には高層ビルがほとんど無くて、ずーっと平屋が立ち並んでいるところに、ぼんと戦前に建てられた真っ黒なジンジャンホテルがそびえている、という感じでした。 その後、円形の新館が建ったりして、多少はマシになりました。 現在では自分がどこにいるのか分からないぐらいに、建物が建ってしまいました。

当時はインターネットと言うような便利なものは日本でも無かったのですが、メールを送る必要に駆られて、電話線に直接繋ぎこんで通信をした覚えがあります。 当然に中国にISPはありませんので、中国からオペレーターを通じて国際電話を日本の自分のオフィスのサーバーに繋いでそこからメールを送ったものです。

中国とのネットワーク回線はその後も許されていませんでしたから、定期的に日本から国際電話で中国のノードに接続して、UUCPでデータのやり取り(非常に懐かしい)をしていました。 1日に1回ぐらいしか繋がりませんので、メールが届くのに丸1日はかかりました。今なら夢のような話です。 上海から台湾に行くのに直行便は無い時代ですから、香港で乗り換えたのですが、香港の如何に近代的に見えたか、肩の力がすっと抜けたのを覚えています。

今月の読み物は、「宇宙を測る―宇宙の果てに挑んだ天才たち」ブルーバックス キティー ファーガソン (著) ¥1,113(税込)です。 最近はなかなか本を読む時間が無くて、読んでもすぐに寝てしまうので読めません。 その中で、まあまあ面白いと思ったのがこれ。 以前から星までの距離をどうやって測るのか、疑問に思っていました。 この本ではその測り方をアリストテレスの時代から紹介します。 現代でも結構いい加減な測り方をしていると分かって、何となく安心しました。 もっととんでもない方法があるのかと思いきや、結構いろいろな仮定をおいて測っているんですね。 宇宙の年齢もこの測り方と関係していて、100億年とか150億年とか言われていますが、その根拠とか論争も紹介されています。 全体を通して一種の天文学史になっていますので、その点でも興味深いものがあるかもしれません。

出版社/著者からの内容紹介
ホーキングを知りつくした著者が宇宙の果ての謎に挑む

宇宙の端までの距離は測れるのか?
古代から宇宙の果てに思いを馳せながら、宇宙の広さを測り続けてきた驚くべき天才たちの物語。プトレマイオス、ガリレオからアインシュタイン、ホーキングまで巻き込んだ最新宇宙論の入門書。

「この本は、2500年の間に、家の戸口の階段から宇宙の果てまで、人類がどのように測定のはしごをかけていったか、そして、その冒険が宇宙や私たちの住む地球の形や性質についての考えをいかに変えてきたか、を紹介しています。」――序章より







5月1日
今年はあっという間に桜が咲いて、その後急に寒くなって、桜がしばらく散らずに残りましたが、4月の後半になって急に暖かくと言うより、暑くなって来ました。 真夏日が出現したくらいで、異常気象はまだまだ続いているのでしょう。 これを逆手に取った先日のエアコンの宣伝文句が、今エアコンを買っておいたら、冷夏になったらキャッシュバックします、との事。 流石にいろいろ考えると感心しました。

通貨の円は、このまま110円くらいに突入するのかと思っていたら、アメリカの状況が不安定になってきて、またぞろ高くなって来ました。 株価も4月に入って大幅に下がったままで、ここはしばらく辛抱のしどころでしょう。 反面、投資の好機でもあります。

ニッポン放送問題も一段落して、よくよく見てみると、買い占めた株を高値で売り抜けると言う、古来からの常套法でありました。 ライブドアは株価が下がったものの、1500億円ものキャッシュを得て、今後のフリーハンドが大きく広がったと言うべきでしょう。 一番得をしたのはローリスクミドルで、うまくライブドア株を売り抜けたリーマンブラザーズ。 次はハイリスクハイターンだったライブドア。 トントンもしくは損をしたのはフジテレビ。 ここまでお金を使わずにニッポン放送のTOBは成功させられたのに、詰まらん追い銭を払う羽目になってしまいました。 ニッポン放送はその狭間で翻弄されたと言うことでしょう。

三者三様でそれぞれのビジネススタイルが結果にも現れていて、なかなか興味深いものです。 単なるマネーゲームと言えばそれだけですが、これが全てである訳でなく、これを極端の端っことすると、反対側には、公益的な第3セクターや社会インフラを担当する会社もあるのでしょう。 よく言われたことですが、株式を上場して他人のお金を当てにする以上、今回のような出来事が起こる可能性を考慮しておかないといけないことになります。 どうしても防衛したければ、自己資金で、公開せずにプライベートカンパニーにしておけば済む事で、他人のお金は使いたいが、今回のようなリスクは嫌だ、と言うのは単なる勝手もしくは株式会社の基本を理解していないとしか思えません。

1989年頃から足掛け12年シリコンバレーでいろいろ見てきました。 その後の2000年のITバブルでやっと日本にもこのような時代が訪れたのか、と思いましたが、すぐにしぼんでしまって、今回またもやこのような状況になってきました。 政府は大赤字を抱えてますが、結果的に資金は世の中に充満している訳で、いつ何時以前のようなバブルが発生するかもしれません。 既に東京の一部の不動産ではバブル的になっているとの指摘もあります。

この間、聞いた金融機関のファンド管理ビジネスの話で、世の中には金融資産を3億円以上持っている人が沢山いて、これをターゲットの市場とするだけでも結構なビジネスになるとの事。さらには5億円以上保有者も沢山居るとの事でした。 土地はともかく、金融資産だけで3億とか5億とか持っていると、やはりインフレへの警戒感が非常に高いのではないかと思いますが、金融資産全体で160兆円という中にこの様なものが沢山入っているのでしょう。

今月の読み物は、「心は量子で語れるか―21世紀物理の進むべき道をさぐる」ブルーバックス、ロジャー・ペンローズ (著) ¥1,092(税込)です。 著者は著名な数理物理学者で、いつノーベル賞をもらってもおかしくない人ですが、こう言う高名な物理学者は最後には人間の精神の解明に行き着くという好例で、以前から「トンデモ」系ではないかとけ言えんしていましたが、たまたま本屋で見つけて、パラパラと見ていると面白そうなので読んでみました。 巻末にはこれも有名なスティーヴン・ホーキングらとの論争があり、これもなかなか興味深い。

前半は、量子論の話で、少し知識は必要ですが、ポイントを突いている説明で小気味良く読めます。 宇宙はビックバンからスタートしてビッククランチで終息すると言う説もありますが、熱力学の第2法則のエントロピーの増大を考えると、ビッククランチでの状況は、我々が常識で考えるより、もっともっと複雑であろうと言っています。 また、量子論の最大の問題の波動関数の崩壊とか状態ベクトルの収縮とか言っている、観測問題を正面から取り上げて、著名な物理学者の立場の違いを表にしているのは面白いと思います。余程の理解が無いとこう言う分類は出来ません。

後半は、とうとう精神と量子の話に入ります。 下手するとこの辺りから「何とか波動波」を売り物にする似非新興宗教みたいなものになっていきますが、著者はあくまで、こんなものとは関係なく、脳の中で如何に量子が影響を及ぼして、計算不能な人間の精神を実現していると言うことです。

古典物理学の最高峰で量子力学に最後まで反対したアインシュタインの有名な言葉に、神はサイコロを投げない、と言うのがあり、これを量子力学に対する反論としたのですが、量子力学そのものには確率性は無く、おそらく神様には量子の振る舞いが確定的に見えているのでしょうが、人間が見る(観測する)と確率が入ってきてバラバラに見えると言うことで、観測問題はどこで崩壊なり収縮が起きるのか、と言う問題を含んでいます。 突き詰めると人間が観測した(見た)から、と言う事になって、ペンローズのような発想に行き着くのではないかと思います。

確かに量子には不思議な性質があって、遠く離した量子の間に何らかの関係があることが知られています。 これは現在、数kmに渡って量子暗号通信が可能になっています。 光ファイバーを使ったもので、光子をひとつずつ送信するので、通信時間はかかるようですが、実際に動作しています。 これは量子が遠く離れた場所に対して広がりを持つものと見ることが出来ます。

もうひとつの例は、2スリット問題で本欄でも取り上げたことがありますが、2つのスリットを通して、バラバラに時間を取って光子をひとつずつ送っても、同時に沢山の光子を送ったときに見られる単純な確率と同じ確率で2つのスリットを通ったことになります。 これは量子の時間的な広がりを感じさせます。
この様な2つの空間的時間的な広がりが量子にあるとすると、これが頭脳の中のニューロンに何らかの影響を与えて、人間の意識とか精神とかが実現しているのではないか、と言うのが話の趣旨です。

この他に、ペンローズはゲーデルを引き合いに出して、人間の精神や意識は計算不能であるという前提で理論を展開しているのですが、この点に関しては、巻末に載っているスティーヴン・ホーキングとの論争で、ホーキングは反対しています。 わざわざ計算不能を持ち出さなくても、上記の2点でも十分面白いと思うのですが。 ちなみにホーキングは「恥知らずの還元論者」と自ら名乗って、ペンローズの意見に反対しています。 ペンローズも正面切って再反論はしていません。







2005年4月
円もだんだん下がってきて、原油は依然として高いものの、経済全体に与える影響は、過去のオイルショック時代と比べてかなり低くなっているようで、景気の緩やかな上昇は続いているようです。 デフレ傾向は相変わらずですが、社会全体がデフレ傾向となっているので実感としては、あんまり強く感じることはなと思います。 以前にも紹介したことがありますが、1990年代を通じて世界的にデフレ傾向であったことは間違いありません。 日本ではバブル崩壊の後でデフレ傾向をじっくりと肌で感じているような余裕は無かったと思いますが、アメリカではウォルマートをはじめとするディスカウントショップが幅を利かせ、生活費は驚くほど少なくて済みました。

昨今は所得の偏重が問題になっていますが、逆に言うと収入の少ない人でも、それなりに暮らしていけるということでしょう。 ホームレスも問題になっていますが、発展途上国の食料事情とは大きな違いがあるのではないでしょうか。 この辺の感覚は1990年始めころのアメリカの状況と似ています。 アメリカに周回遅れと言われたのが、デフレの顕在化で一躍先頭に立ったような状況だったのですが、結局周回遅れというより2周回遅れに近いのではないかというような感じになってきました。

アメリカでペイオフが実施されたのは、1980年代の終わり。 この時TVを見ていたら、預金保護の話ばかりで、ついこの間の日本の状況でした。 その当時は何のことかさっぱり分からず、世界のトップの国で何で銀行の心配をしないといけないのか、理解不能でしたが、日本でのペイオフ実施でやっとその意味が理解できました。

1990年代のアメリカでは、ダウ平均が2000ドルからクリントン政権の10年間で5倍の1万ドルとなり、金融資産のほとんどを直接株式か株式投資信託で運用していたアメリカ人は全員資産が5倍になったのです。 これでは個人消費が伸びるのも当りまえです。 もっとも蓄えを通り越す消費が問題になっていますが。 さらにはあの景気の中でもレイオフは常時行われており、企業のスリム化は常に行われていました。 ITによる労働生産性の向上も、レイオフや賃金上昇率の低下も考慮に入れないと正確なところはわからないのではないかと思います。

先月からTVをつけると必ず報道されていたライブドア問題もやっと少し沈静化してきました。 これで1億総投資評論家になっていろいろ投資の手法を勉強したことと思います。 これで株式市場が活性化されるのかどうかは不明ですが。 クラウンジュエルとか白馬の騎士とかいろいろ言葉が出来ましたが、我々が良く使ったのはゴールデンパラシュートとかゴールデンカフとかいうようなのがあったと思います。 これは自社や買収した会社のCEOというか社長をどこかから雇ってくるのですが、当然に引き受けるほうは株主代表訴訟や倒産のリスクがあるわけで、こうなったときの退職金を大幅に積んでおくことを言います。 カフはお金を積んで逃げられなくする手法ですがこっちの方は半分冗談です。 お金はいくらあってもなかなか強制力にはなりません。

ライブドアのほうはとうとう本命のソフトバンク、それも想定外のSBIが名乗りを上げました。 ライブドアにとっては最悪の相手でしょう。 堀江社長自身がこの件に関しては「想定外」とはっきり言ってまして、おそらくソフトバンクの孫さんを想定していたのでしょう。 こちらは多少は話が出来ると言うことで、流石の堀江氏もSBIの北尾氏との面談をキャンセルしています。

今後の方向は、やっと少し見通せる情況になってきました。 もっともあり得る成功率の高い状況は、ニッポン放送の現役員と事業は社長を含めてそのままそっとして、現状の事業を続ける。 一方でライブドアとの連携を考える部門をひとつ作ると言うことでしょう。 問題はどちらかというとフジTV側です。 結局問題を持ち越した形になってしまいました。 ライブドアが50%を超した段階ではフジTVの持株は意味を成しません。 おそらくこのままだとニッポン放送は上場廃止になってしまうので、持株の価値はほとんどなくなってしまいます。 ライブドアに買ってもらっても良いのですが、何らかの条件がつくでしょう。

いずれにしても、ライブドアは元々の意図はともかく、着地が可能ですが、フジTVはもっとも大変なSBIという相手と組んでしまったし、ニッポン放送の株式も抱え込んでしまって、着地点が見え難くなってしまいました。

今回の騒動は株式投資のやたらと細かいテクニカルな話に落ち込んでしまいましたが、本来議論すべきは、将来の通信と放送の融合をどうやっていくかです。 これがうまく行くと減殺のケータイで日本が先行しているようなカタチにすることが可能でしょう。 デジタル地上波に現を抜かすのではなく、もっとこういう方向のコメントを政治家にも出してほしい。 ライブドアけしからん、放送法の改正だ、とかは少しレベルの低い議論でしょう。 特に総務大臣はライブドアがビジョンを示さないというより自ら将来のビジョンを語るべきでしょう。 このまままでは30歳台のベンチャーの社長の言うことよりレベルが低いといわざるを得ません。

デジタル地上波放送は風前の灯火です。 これが実用になるころは、FTTHで画像が送られていることでしょう。 現在のTV画像は6Mbpsあれば送ることが出来、ハイビジョンでも24Mbpsと言われています。 100Mbpsの速度が出れば十分に映像を送ることが出来るのです。既にそのサービスは始まっています。 NHKに高い受信料を支払うくらいなら、それをキャンセルしてFTTHのサービスにお金を払えばよいでしょう。 最近出てきたNHK受信料強制化はこの辺を睨んでいるかもしれません。 TV受像機を持っていなくても受信料を強制徴収するのであれば、それは税金と変わりません。

アナログ地上波は2010年ころに完全に廃止になるそうですが、なんとなくペイオフの延期を連想させます。 おそらくこのスケジュールは延期になるのではないかと思います。 もし強行すればTV離れが一気に加速するでしょう。 現状でも1週間の全ての番組を録画しておく機器が市販されていますが、これは現在のTV放送と言うものを根本的に変えてしまうことを意味しています。 恐らく現在のTV放送はラジオみたいな存在になって行くでしょう。 リアルタイム性のあるCNNのニュースみたいなもの。

映画の放送は完全にFTTHのオンデマンドになり、双方向性が必要な番組もFTTHになって行くでしょう。 軽チャーの典型のバラエティ番組はBGM的にTVとして残るでしょうが、こんなものに双方向性は全く不要です。 放送に電波を使い、双方向と言って上りの回線にはインターネットを使うのはあまりにも変。 唯一のメリットは多数の端末に一度に情報を届けられる「マスメディア」の特性だけでしょう。 これも程度問題で、インターネットでもデータ輻輳の問題を軽減すれば、出来ないわけでは全くありません。

従って、地上波デジタルの機器は本当にその日が来るまで、買わないでおこうと思っています。 従来型のTVに付加するセットトップボックスも5万円もするそうなので、これが5000円くらいに下がったら検討しようかと思っています。

地上波デジタルも日本人の特性を良く表しています。 番組の数を増やすのではなくて、現状の画像をきれいにするハイビジョン、それを可能にする地上波デジタル、という図式です。 これはPCの世界で、アメリカはCPUチップを作り、日本はメモリを作った事と同じカタチです。 最終的にどちらが勝ち組になったかは自明です。 過去営々と開発をして結局日の目を見なかった初代のハイビジョン、アナログ技術の極地でしたが、はっと気がつくと世の中はデジタル化で、時代遅れになってしまいました。 このときのハイビジョンと現在のデジタル化されたハイビジョンは全く別物です。 ハイビジョンに一生をかけた人はプロジェクトXできちんと総括をしてもらうべきですね。

この他にもiPodに負けたソニーのウォークマン。 MP3の端末が出たときに実はソニーは同じものを出していたのです。 その時は自社のMDウォークマンを食ってしまうかも知れない機種を出したソニーに尊敬を感じていました。 しかしその後MP3フォーマットを再生しないとか、ソニー内部の問題でまともな製品が出てこなかったころから、ソニーがおかしくなってしまいました。 大企業病の典型です。


今月の読み物は、亡国のイージス 上下 講談社文庫 福井 晴敏 ¥730(上)。 在日米軍基地で発生した未曾有(みぞう)の惨事。最新のシステム護衛艦《いそかぜ》は、真相をめぐる国家間の策謀にまきこまれ暴走を始める。交わるはずのない男たちの人生が交錯し、ついに守るべき国の形を見失った《楯(イージス)》が、日本にもたらす恐怖とは。 日本推理作家協会賞を含む三賞を受賞した長編海洋冒険小説の傑作。

映画化を意識したのか、冗長な記述が多いですが、良く分かります。 実在の兵器と架空の兵器が混在してしかもそれらが違和感なく存在してるのは面白い。 自衛隊の装備の知りたい方にも最適。

本当の姿はそうなんでしょうが、刑事モノを読んでいるような気になるのは何故でしょう。 日本には志願制がないので、戦争を仕事にしているはずだが、戦闘になると何となく素人っぽくなるような気がします。 同じ人間がやっているので、実際はそうなんでしょうが、アメリカ映画にあるようなドライさが無くてえらくウエット。 ハリウッドに負けない映画になることを期待しています。







2005年3月
今月はいろいろな話題が出てきたので、3月1日号を少し早くお届けします。 先々週から大騒ぎなのはライブドア=ニッポン放送・フジテレビの問題です。 段々と論点が整理されてきたようですが、旧世代と新世代の争いみたいになって来た様な気がします。 少し前に大騒ぎになったアメリカのAOLのタイムワーナーの買収も結局はうまく行かなかったようです。 現状では最終的にはライブドアの形勢が悪いようですが、今や世界でトップのブロードバンド先進国になった日本では少し状況が異なるのかも知れません。 しかし、その間の細かい議論を聞いているとおかしな点がいろいろあります。

今サンデープロジェクトを見ながら書いていると、ライブドアの支持は若い世代と中高年の世代では株式市場を少しでも知っている中高年の世代の支持が圧倒的に多いそうです。 私も最初はこの結果を聞いて意外に思いましたが、自分ではアメリカの1990年代をずっと見てきていると、そんなに不自然な気がしません。 確かに少し荒っぽいところはあって、印象的にはプロレスの反則技の応酬という感じがないわけではありませんが、マスコミが一斉に攻撃しているような問題では無いと思います。 新聞などは同じマスコミ関係者として過剰反応しているような気がします。 この前のプロ野球騒動は何だったんだと言いたくなります。 私個人はプロ野球の時は冷ややかでしたが、今回は少し異なります。

ライブドアが最終的にどのような着地点を目指しているのか、現時点では当事者を含めて誰にも分からないのでしょうが、その道は遠く険しいものでしょう。 方やニッポン放送側は現状を取り戻して、元の目的のフジテレビの子会社になれば終わりなので話は簡単です。 裁判の結果を見ないと何とも言えませんが、どっちに転んでもライブドアは大変だと思います。

村上ファンドも登場していますが、あんまり深い関連は無いようです。 村上ファンドは2000年に日本で始めて本格的な敵対的TOBを仕掛けたのでよく覚えています。 当時は日本企業のほとんどの時価総額が低下して買収しやすくなっていたので、とうとう日本にもTOB時代が訪れたと思っていました。 その後の東京スタイルなどでチャレンジを続けました。

結局、得をするのはリーマンブラザーズで、他の当事者はあんまり得はしないでしょう。 ライブドアは最悪倒産はしないものの、企業価値を大幅に低下させてその影響力を大幅に下げてしまうでしょう。 その意味では一番リスクを負って果敢に挑戦しているのはライブドアでしょう。 リーマンブラザーズは24日にCBが発行されるまでの間、いわゆる繋ぎ融資みたいなものを行って、その見返りにライブドアの株式を4600万株借りたようです。 これを現物で売って(890万株を10日までに売ったそうです)、22日か23日に買い戻せばそれだけで当座の手数料は稼いだのでしょう。 22日ごろに大きな買いが入っていました。CB発行で得た株式はこれから徐々に市場で売却していくとの事。

放送の公共性云々の話が出ていますが、本当に公共的で買収リスクにさらされるのが嫌なら、株式を上場しなければ良いのであって、少し調べてみたら、1997年ごろにどの放送会社も上場している事が分かりました。 特にラジオ放送局の上場はニッポン放送だけみたいです。 要するに上場して資金を集める意味がないということでしょう。

上場とかIPOと言うとそれそのものが目的であるかのように、特にベンチャービジネスでは「IPO=上がり」みたいに言われていますが、これは本来はおかしくて、事業を大きく伸ばしたいので初期投資資金が必要になるので、市場を通じて広く資金を集めると言うのが株式公開の意味です。 ラジオ局に何千億もの投資がこれから必要とは思えません。 ニッポン放送の新株予約権なるものは、その背景から言ってもおかしなものでしょう。 単に防衛的な意味合いだけだと、株の希釈化による株価下落で現状の株主の損害を招きます。 また状況によっては上場廃止という事もありますので、これでは株の価値と言う点では全く意味がありません。

外国人支配の問題も、確かに電波割当の特殊性はありますが、日本の銀行や世界的な企業は外国人の持ち株比率は30%以上にもなっているはずで、最も公共性の高い必要のある銀行は、そういう意味ではほとんど外人の持ち物になっていると言ってもおかしくないような状況になっているのではないでしょうか。

放送会社の株式上場の話に戻りますが、これが行われたタイミングと言うのが、デジタル放送の議論が行われた時期で、これを睨んで将来の資金需要を見込んで各社一斉に上場したようです。 このデジタル放送が因縁の元であると言う気がします。 旧来の放送という概念をずーっと延ばしてインターネットとの連携を考えたものがデジタル放送ではないでしょうか。 しかし、今や光ファイバーでビデオ映像が容易に送ることが出来る状況となり、ハイビジョン放送も1GBに上げた光ファイバーでは容易に実現できるでしょう。その実験もあちこちでスタートしています。

インターネット関連の会社はコンテンツが無いので、今回のような買収で入手しようとしていますが、テレビ局も現状の軽薄な番組ばかりでは、コンテンツと言うには余りにも貧弱と言われてもしょうが無いでしょう。

ライブドアの話が長くなってしまったので、HPのフィオリーナ解任の話は少なくなってしまいました。 就任当時から話題性はあったもののその成果については疑問符が多く付いていました。 私もアメリカに居たときにこのニュースを聞いてビックリしたものです。 シリコンバレーの中では一種保守的な会社でしたし、日本企業との類似も多く指摘されていて、その企業が一発逆転を狙ったと言う感じでした。 解任と同時に株式が7%アップしたのも皮肉な結果です。 いずれにしてもHPは大きくなりすぎて、プリンタやコンパックのPCまで抱えてしまって、会社分割の必要性が取りざたされているようです。 DELLがPCからプリンタに参入したのに、元々PCとプリンタを持っているHPがそのシナジーを十分に生かしきっていないと思います。

この間あった中国企業と日本企業のパネルディスカッションで面白かったのは、こちらを向いているPCのブランドの違い。 中国企業は全てHP、日本はパナソニック。 中国はその内にIBMになるのかもしれませんが、なかなか際立った差が面白いし、さまざまなことを物語っていると思いました。 最近はソニーも企業向けを言い出していますが、やはり松下が強いです。 この間量販店で聞いた親子の会話。 松下が良いねと息子。 いやいやこれは良いけれど高い、他にしょ、と父親。 マーケティングは正しいのでしょうがそろそろ広げる必要もあるのでは、と感じました。

今月の読み物は、「ガダラの豚」集英社文庫 中島 らも著 ¥510(税込)。
3部作で3冊になります。登場人物やストーリーの流れは同じですが、それぞれテーマは異なります。 私も中島らもは初めてですが、超能力ブームやカルトの関連で読んでみました。 第1部は超能カルトの種明かしをします。 特に新興宗教がマジックを利用する方法は、ノンフィクションとは言えなかなか本格的です。 第2部はアフリカの旅行記みたいなものになってます。 アフリカのケニヤ地方に行かれたことがあればひょっとして興味深いかも知れません。 第3部は、アフカリカから来た呪術士との現実と創造、実世界とテレビ世界が混じり合った一大スペクタクルの冒険小説になっています。 それぞれの本を別々に読んでもOK。 軽からず重からずで気軽に読めます。 日本推理作家協会賞受賞作。






2月5日
2月は休みの関係で少し遅くなりました。 ちょうどこのタイミングで主要7カ国財務相・中央銀行総裁会議(G7)がロンドンで開かれています。 焦点はもちろん米国の「双子の赤字」問題です。 これを材料に為替市場は昨秋以降、1ドル=110円から一時101円台まで円高ドル安が進展しました。 一方、ユーロも昨年末にドルに対して発足以来の最高値をつけ、ユーロは高すぎると言う不満が出ています。 一時は暴落かと言われたドル売り相場も一服してG7を迎えることが出来ました。 イラクの選挙も何とか実施ができ、後は占領軍の撤退時期が問題となって来ます。 また、こうならない限り米国の赤字削減は簡単には進まないでしょう。 さらには中国元の切り上げ問題とか、今年の為替市場は波乱含みです。

あんまり知られていないことですが、ハッブル宇宙望遠鏡が廃棄されることになりそうです。 老朽化が進むハッブル宇宙望遠鏡を07年度に廃棄する予算を出すそうです。このままの回収には10億ドルかかるそうで破棄を決めたそうです。 ハッブルを軌道から外して安全に太平洋に落とすため、小型噴射装置を取り付けるとの事。 これまでにハッブルの多くの宇宙の映像を見続けてきたので、この話には一抹の寂しさがあります。

ハッブル宇宙望遠鏡は1986年夏に飛び立つ予定でしたが、チャレンジャー号の爆発事故により延期され、4年後の1990年にようやく打ち上げられました。ところが、当初、ハッブル宇宙望遠鏡がとらえた画像はピンぼけで、それを修正する画像処理を施し、さらに1993年には、エンデバー号の飛行士たちが、宇宙空間での船外活動により望遠鏡の修理を成功させ、やっと鮮明な画像が得られるようになりました。 このような苦労の末、この望遠鏡がとらえたものの多くが新たな発見を呼んでいます。地球から130億光年かなたの最遠で最古の小銀河をとらえたほか、銀河どうしの衝突の場面や、一生を終えた星の大爆発後にできた星雲など、地上の望遠鏡ではとらえられないほど鮮明な画像をたくさん提供して来ました。

さて、昨秋はデジタル機器の著作権に絡む問題が大きな節目を迎えています。 評判の非常に悪かったコピーコントロールの付加されたCD(CCCD) の発売を事実上中止することになりました。 業界で最初にCCCDを導入し、ほぼすべての新譜をCCCD化してきたエイベックスが「運用の弾力化」を発表、適用を大幅に縮小しました。 次に新譜を原則CCCD化していたソニー・ミュージックエンタテインメント(SME)も全面撤退を表明しました。これで残る大手は東芝EMIだけとなってしまいました。

特に東南アジアにおける海賊CDの氾濫に手を焼いたレコード会社が、PCへのコピーを防止する目的で導入したCDの方式です。 ところが、目的外の通常のプレーヤーで再生できないケースが続発し、方やPCではほとんど何もしなくてもコピーが出来てしまう事、録音された音楽の音質が悪くなると言われていることなどで、CDそのものの売り上げが落ちてしまったことが大きな原因です。 CCCDのCDだと言うだけで購入を避ける若者も多くいます。

おまけにCCCDの技術(CDS)には利用料を支払う必要があり、宇多田ヒカルや山下達郎ら有名アーティストが、音質悪化を理由にCCCD化を拒否しているほど。 さらには、iPodや着うたに代表されるデジタルコピーを活用した音楽の楽しみ方が急速に普及したことでしょう。 これは良くも悪くもCDというパッケージビジネスが曲がり角に来ているということを表しています。業界にはこれまで「ネットには無料で入手できる違法コピーがあるから、ノンパッケージは商売にならない」という声が強かったと思いますが、違法な音楽ファイル交換が日本よりはるかに多い欧米でiTunes Music Storeが成功したように、ニーズに合致したサービスを提供できれば、人々はノンパッケージにもお金を払と言う事が実証されたわけです。

CCCDを導入してからの2年半は文字通り顧客に背を向けて商売していたわけです。 音楽の業界を見ていると、日本の経済社会の縮図のような気がします。 最初にMP3の音楽を聴いたときのことを本欄でも紹介したことがありますが、当時はMD隆盛のころで、ビデオデッキで培った精密機械技術でMDを作っていましたが、方やアメリカでは半導体技術の塊のMP3プレーヤーがメジャーになって行きました。 その後継が iPod と言うわけです。 iPod もディスクと言う究極の精密機械技術ですが、その裏づけはやはりMP3に代表される圧縮技術であり、さらに大きいのはMP3で培ったノンパッケージのビジネス構築だと思います。

確かに、ブランクCDやDVDのCD-R/DVD-R が何故あれだけ売れるのか、全てが全てコピーに使われているとは思いませんが、かなりの部分は個人的なコピーに使われているのでしょう。 また、それの一部が個人的なコピーを超えて使われているのでしょう。 ずーっと以前にゼロックスのコピー機が現れたときに、これで本屋は無くなる、と言った人がいましたが、それはそうなっていません。 コピーするより本を買ったほうが安いからです。 デジタル時代にはそれがそのまま通用するとは思いませんが、要するに高いからコピーが流行る。 安ければ一部のコピーそのものを楽しむオタクを除いては、後ろめたい気持ちを持ちながら面倒なコピーを喜んでやるとは思えません。 コピー騒動にエネルギーを使うのなら、もっと前向きのノンパッケージのビジネスモデルの構築を真剣にやるべきでしょう。

こう書いてきて、思い出したのは、一時のマイライン騒ぎ。 我が家にもセールスが現れてわが社のマイラインに契約してくれと言ってきたことがありました。 いずれは固定電話がなくなりIP電話になってしまうので、無駄なことは止めなさいと、無駄な説教をしたこともあります。 言った私もこれくらい早くIP電話が浸透するとは思っていませんでした。 既に我が家にある2本の回線は、1本は完全に解約して光ファイバーの電話になり、もう1本もNTTではない別の電話会社が完全に使用していますので、NTTに支払う金額はゼロになってしまいました。 これではNTTもたまらないでしょう。 私に言わせれば、マイラインのツケが回ってきたのです。

このように、失われた10年とか15年とか言われていて、銀行やゼネコンが悪の元凶みたいに言われていますが、他の分野でも目立たないが、無駄な将来に全く役に立たないことでエネルギーを浪費していることに、自分でも自問自答しないと、この失われた10年が20年になり30年になるでししょう。

今月の読み物は、「公会計革命」 講談社現代新書 桜内 文城 (著) ¥777(税込)。
要するに一言で言うと、単式主義、現金主義の国家の財政を、通常の企業でも使われている複式会計の考え方を使って、キチンと数字を出してみる。 国家の将来の方向を数字で見れるようにすると言うことでしょう。 ポイントは、いつも問題になる年金などの将来世代の負担問題で、これを資産的な考えで、広い意味のBSに取り込んで会計を行うと言うことです。 詰まらん設備でもちゃんと減価償却しているのですが、国の大きなお金は漠然と何百兆円という感じで言われているだけです。 こう言う考えがなかなか面白い。 行政機関は基本的に税金と言うたなぼたのお金があって、これを如何に使うかの、経費だけ管理、小遣い帳を付けているだけです。 本誌でも触れているように、予算の決定そのものが政策なので、この決定時のシミュレーションがキチンとできるシステムが要求されていると言うのは全く同感。

また、国民と政府の関係について、政府から見たら国民は顧客なのか、出資者なのか、と言う問いも面白い。 両者は似ているようで根本的に異なる、と言うのが本誌の主張。 顧客なら国家サービスと言うサービスを受けたら、その費用がどのように使われているか、知る必要もないし、知る権利は無い。 ただひたすらサービス料の高い低いが問題になるだけ。 出資者なら、出資した資金の使用方法の効率を云々する事ができ、委託先の政治家が思ったパフォーマンスを出せなければ交代させたらい良い、と言う大きな差がある。もちろん本書の主張は後者です。

政治家よ、官僚よ、目を覚ませ!
日本を破綻から救う革命的意思決定システム!
●国民は政府の「顧客」ではなく「主権者」だ
●将来世代へのツケ回しをどう減らす?
●20XX年の内閣総理大臣の仕事
●日本は財政破綻するのか
●あの公共事業官庁の予算をシミュレーション!
●公会計は世界の経済と歴史を変える
国ナビとは何か
まず、「国家とは誰のものか。国家というシステムは、誰のためにあらねばならないのか」という問いを立ててみよう。言うまでもなく、その回答は「国民」以外にはないはずだ。(中略)つまり、国家の実質的所有者である国民がその経営を政治家にゆだねても、政治家が自分勝手な経営をしたり、私腹を肥やしたりしないようチェックするシステムが必要になるのだ。それが国ナビであり、民間企業において、会社の実質的所有者である株主が、経営を委任している経営者をチェックするために企業会計を利用する姿に重なるだろう。






1月1日
2005年あけましておめでとうございます。
昨年は本当に災害が多かったのですが、最後のとどめにインドネシアの津波被害が発生しました。 実は昨年の10月にタイのプーケットト島にいて、ビーチで半日ボケーっと過ごしたり、ピピ島のまわりで船に乗ったりしていましたので他人事とは思えません。 地震と言う地質学的に考えると、10月と12月はほとんど同じで、ビーチでボケっとしていた時に津波が襲ってきたら本当に逃げられたのかな、と我が身に引き比べて考えています。

最後の大晦日でも、関西では雪が降って交通が混乱しているようです。 昨年の夏は猛暑だったので冬は暖冬になるとの予測があって初冬は異常なほど暖かかったのですが、年末になってやっと平年並みの寒さになってきました。 おかげで寒さに慣れていない体には寒さが余計にこたえるようになりました。

前置きが長くなりましたが、毎年の1月号は、未来予測を行うのが通例になっていますが、昨年元旦の予測であるネット家電の進展がますます進んだように今年も脱PCとも言うべき現象が進むでしょう。 我家もとうとう年末に光ファイバーを引きました。 ADSLと実質的な速度は同じと言うことですが、その安定性は抜群です。100Mbpsという事ですが、実際には30-50Mbpの速度が一般的なようです。

ネットワークの進展には目を見張るものがあり、初期のLANであるイーサネットの速度が3Mbpsであった事を知る人は少ないでしょう。 その後仕様変更で10Mbps、さらには100Mbps、 1Gbps にアップしましたが、未だに10Mbpsで使っている人も多いと思います。 光ファイバーによって、LAN並みの50Mbpsの速度が出るとは誰が予想したでしょう。 10年ほど前に京都の町屋に156Mbpsの通信回線を引けと提案したことがありますが、こう言う形で実現するとは思ってもみませんでした。 近距離の通信手段であるUSB2.0 の理論速度が480Mbpsですので、LANが1000M、WANが100Mと言うのは良い組み合わせのように見えます。 最近のPCのアーキテクチャは1Gbpsの通信に耐えられるように作られていますので、LANにおいて数100Mbpsの通信は現実のものとして良いでしょう。 無線LANもIEEE802.11gになってから、通信距離などはかなり改善されています。 理論的には54Mbpsですが30Mbps程度の実測値は出るようなので、WANとも良い組み合わせになります。

我が家の光ファイバーは、ケーブルは1本ですが中に2本の光ファイバーが入っており、TVに関しては、インターネットと別のケーブルを使うようです。 いずれにしても、100Mx2=200Mbpsの能力があると言うことになります。 ADSLで通信速度が飛躍的に上がったように、将来は、同じファーバーを使って、更なる速度向上が図られることでしょう。片道1Gbpsとすると2本で上下往復で4Gbpsの通信の可能性が出て来ます。 現状のTVクオリティの映像では概略5Mbpsの速度があれば、十分に動画の伝送が出来ますので、その1000倍のクオリティの動画を送る事が出来れば、当分の間ここ数十年はインフラとして十分なものになるでしょう。

脱PCとして象徴的なのは、IBMがPC事業を中国の企業に売却したことです。 元々PCをここまで押し上げた原動力はIBMで、その実質的な終焉は時代の変わり目を感じさせます。 最初のIBM-PC のハードの心臓部であるCPUチップを作ったのはインテルで、そのOSを作ったのは マイクロソフトでありました。 OSをマイクロソフトが作った事は、いろいろ物語が出来ていて、CPMとそっくりだったとか、ビルゲイツがソフトウエアビジネスの基礎を築いたとか言われていますが、ソフト面同様ハード面は当時のIBMの方針に対して全く反するやり方で開発されました。

最初のIBM-PCはインテルの8088と言う何と8ビットバス幅のチップが使われていました。 放熱フィンなど全く無くて、通常のプラスチックパッケージに入っていました。 現在ではバス幅は64ビットになってきており、バスの高速化でバスとしては追いつかなくなってきたので、各チップを結ぶパス(バスではない)となってきましたが、数としても単に8倍になっただけでなく、その接続本数も飛躍的に大きくなって、最近では1000本近いピンを持つLSIまで現れています。

最初のIBM-PCはXTと呼ばれていて、流石に8ビットのバス幅では将来の拡大が無くなったので、その改良版として IBM-PC/AT が開発されました。 現在はさらにこれの改良型のATXが標準になっています。 しかし、元の IBM-PC の構成方法である、大きなマザーボートとそれに直角にIOボードを差し込むと言う形は変わっていません。 IOボードの接続も、元のカタチから変わって、現在はPCIバスになっていますが、これも近い将来に変わっていくでしょう。

日本では、日本語の処理が問題となって、NECが独占的な位置を占めていて、IBM-PCに相当するのはPC-9800でした。 最初は日本語の表示をハードを使ってやっていましたが、その内にCPUの性能が上がってきたので、IBM-PCのOSの国際版であるPC-DOS/V によってソフト処理で行うようになりました。 それがきっかけとなって、現在のPCの形がハッキリ出てきました。 本格的にPCを使い始めた最初のPCはNECでした。 その後出てきたIBM-PCに切り替えるのに大変な目に会った事を思い出します。

IBM-PCで思い出すのは、IBM-PC発祥の地、米国フロリダのボカラトンを訪問したことです。2時間の打ち合わせ、それもお互いの誤解であったことが分かったと言うだけの事でしたが、こう言うことでもない限り行く事もないでしょう。 後にも先にもこの時だけでした。ボカラトンは、マイアミから北に少し行った所にあって、マイアミは治安があんまり良くないですが、ここは住宅地と思うようなリゾートです。 IBM本社の目の届かないこの地で従来とは全く異なるやり方でIBM-PCは誕生しました。 その後、責任者が飛行機事故でなくなってから、IBM社内では迷走がはじまり、PC-DOSの後継のOS/2の低迷を経て、IBMはPC業界の指導力を失って行きます。

この時のIBMの態度は完全オープンで、ハードの回路図を含んだ全情報が本屋で売られている本に載っていると言う事に驚かされた記憶があります。 かたやハードのインテル、OSのマイクロソフトはクローズ戦略を展開して、事業的には成功を収めています。 しかし市場をここまで大きくしたIBMのPCチームの戦略はもっと評価されても良いのではないでしょうか。 ごく最近では、Linuxがオープンソース戦略で大きな成功を収め、インテルが設計情報をオープンにして行くことを発表するなど、事業展開の点でも時代の変わり目が感じられます。

今年始めの読み物は「新世紀デジタル講義」新潮文庫 ISBN:4101387249 立花 隆 \700(税込)。 ITで扱う情報とは何か、コンピュータの原理とは、ネットワークとは、を小気味良く講義します。 付録でオープンソースにも触れており、内容に古さを感じさせません。 日頃PCやインターネットを触っているが、イマイチすっきり分からないと言う気分の方や、ITが十分わかっている方でも、コンピュータの歴史を見たり、考え方を整理するのに最適です。 ところどころ話が上滑りしているところもありますが、全体としては十分合格点です。

特にコンピュータの歴史は、なかなかの圧巻。 機械式計算機からPCまで一気に話が進みます。 欲を言うなら、ここに第5世代コンピュータとかシグマプロジェクト、ワークステーションに少し触れていただいたら完璧ではないでしょうか。

ここに出てくるパラメトロンのコンピュータは学生時代に実際に使ったことがありますし、日本橋のジャンク品店でパラメトロンの基盤を売っているのを見たことがあります。 私の最初の自分で使うコンピュータ、今のPCみたいなものは、HITAC201 と言う国産機で、メモリやレジスタは全てドラム(ディスクみたいなもの)にありました。 ドラムは1回転する間に記憶の出し入れを行うので、1回転が10msぐらいだったので、一度メモリからレジスタにデータを持ってくるのに20msかかると言うようなものでした。 しかし、10進数を直接11桁扱うので、機械語だけでもそれなりに使えました。 大きさは冷蔵庫ぐらいで、2次記憶としてのテープ装置や、乗算器やインデックスレジスタもありハードウエアとしては、速度を除けば立派な装備でした。

その後に使ったのはコアメモリのマシンで、速度は1000倍速くなりましたが、ハードは極限まで切り詰められ、アドレス計算も別に行わなければならないものでした。 面白かったのは、データをメモリに格納する命令が2つあって、ひとつは通常のものですが、もうひとつはジャンプ命令の飛び先アドレスのみを書き込むもので、これによって条件ジャンプを行うと言う、本当のプログラム格納式の利点を究極まで追及したものでした。 本書に出てくるチューリングマシンを髣髴とさせるものでした。 いずれにしても、初めて見たものを親鳥と思うような刷り込みがこ、このコンピュータで起きた事は間違いありません。