シリコンバレーだより(12)
アメリカと日本の行動様式が違うのはなぜ?
**** アップルとIBMが提携!
最近、たて続けに今年の、ひょっとすると90年代10大ニュースのトップになりそうなニュースがありました。その一つは言わずと知れたソ連関連のニュース。そして、コンピュー夕分野では、7月3日に発表されたアップル‐IBMの提携騒動です。
もともとオムロンは、ワークステーションのCPUとしてモトローラ社の88Kというチップを使っており、関係の深いデータゼネラル社も同じチップを使っています。 アップル社は、ずっと以前から88Kを使ったパソコンを開発中との噂が流れており、我々もそれをプッシュすべくモトローラに働きかけていました。それが突然、IBMと提携してしまい、みんなア然としたと言う訳です。
このコンピュータの分野では、提携はあたり前なので、いろんな可能性のある組合せを考えてはみるのですが、アップル‐IBMの組合せは考えてはみても真っ先に×印をつける組合せでしょう。というのは、両者は同じパソコン(PC)業界でも両極端に属しており、全く異なる文化を持っているのみならず、最大の競合同志でもあります。しかも、その提携の内容も、90年代のPCの方向性を大きく左右する内容でもあります。こんな意外性、重要性から言っても、今年のコンピュータ業界10大ニュースのトップを飾るのは間違いない所でしょう。
今は「パソコンの変革期」・・・
PCと言えばMS‐DOS、MS‐DOSと言えばマイクロソフトと連想ゲームは続きますが、このMS‐DOSは、発表から10年たった現在では、海賊版を除いても 7,000万コピー出てるとのこと。最新版のMS‐DOS 5.0 は何と1ヶ月で100万本売れたそうです。
アップル‐IBM提携のおかげで、IBM‐マイクロソフトの仲は完全に決裂して、おかげで今まで80万本しか売れていないOS/2の将来はまっ暗になってしまいました。マイクロソフトの戦略は、MS‐DOS→ Window → NT(ニューテクノロジーと言う新OS)という流れになって、OS/2はどこにも見当たりません。
一方のアップル‐IBMは、「PINK」と言うアップルの新OSを改良した全く新しいOSを開発して、マイクロソフトつぶしにかかっています。この新OSは、オブジェクトの概念を大幅に取り込んだもので、ソフトウェアの作りやすさやマルチメディア等を一気に実現するものと期待されています。 しかし一方、マイクロソフトのOS/2の失敗でもわかる通り、ユーザは極めて保守的なので、いかにユーザが真に必要としている機能を作り込めるかがポイントとなるでしょう。 いずれにしても、ここ 2、3年でコンピュータ、特にPCのエリアでは大きな変革が起こるものと思われます。 また、技術面の大変革の軌を一にして、各コンピュータメーカは大危機に見舞われています。 これも古いパラダイムが革新されて行く過程なのでしょう。
エクセレントカンパニーは今・・・
あの不沈戦艦みたいなIBMも、この四半期は前年度比売上げ22%減のI.1兆円、利益に到っては、何と92%減の154億円と約1/10になってしまいました。 アップルもレイオフ、工場のコロラドへの移転等と苦心惨たん。 カリフォルニア州の OAS(Omron Advanced Systems) はアップル社の本社のそばにありますので、アヅプルのオフィスがガラガラになる等の影響が出てきていることがよくわかります。
また、エクセレントカンパニーの代表みたいに言われたHPも、最近2,000人の人員削減を考えており、「エクセレントカンパニーには首きりはない」と言う神話は崩れつつあります。その他ユニシスは、1万人の人員整理、DECもレイオフ、工場閉鎖を考えているとのことです。
その中で、唯一調子のいいのがサンマイクロ社。 6月に終る年度の売上は、何と31%増の4,350億円、利益は驚異的で71%増の257億円とオムロンとまったく同じレベルになってしまいました(ヤレヤレ、手がつけられない!)。 ATTは、NCR買収に成功し、サンの株式を売却したそうです。これで、サンは自由にもなったが、財務上の支援もなくなったと言うことでしょう。 じっと見守るほかありません。 サンの売上げの30%はヨーロッパから、20%は太平洋地域(つまりほとんど日本)からのものだそうです。
日本では、メジャーなコンピュータメーカは、サンを始めとする米国製品をOEMとして販売しており、自社開発のものはあまり売れていない様子です。アップル‐IBM提携が、日本ではそんなに大きなニュースにならなかったことでもわかるように、日本では、「アメリカで開発され、標準になったものなら何でもよいではないか」という考え方が支配的です。
唯一、TRONプロジェクトは国産技術として自力開発しようとしたものでしたが、しりすぼみになってきています。もし、90年代をねらうのであれば、少々目標が低過ぎたのか、はたまた世の中の流れの方が速すぎたのかはわかりませんが、ハードウェアでRISC技術、ソフトウェアでオブジェクト技術が入っていれば、もう少し状況は変わっていたのかも知れません。
**** アメリカと日本の考え方の違いは言葉のせい?
なぜこんなにアメリカと日本とで考え方や行動様式が違うのかと、いつも疑問に思っていますが、言葉というのも大きなファクタでしょう。 何か言う度に主語(I)が必要な英語と、主語、特に「私」という主語は強調する時以外にはめったに使わない日本語。 論理的なニュアンスを伝えやすい英語と感情的なニュアンスを伝えやすい日本語。 このあたりに基本的な差が出てくるように思われます。
基本的に全く異なる言語なのですが、英語教育期間が長いせいか、翻訳して勉強するのが普通になっているせいか、その差が実感できません。 何しろ、中国語(漢文)を変な記号で順序を変えて日本語として読んでしまうような所がありますから。 これはほとんど同時通訳ですよね。
私が英語と本格的につき合い出してから(約3年前)、最初に「なにか変やな」と思ったのが、"have"という最も基本的な単語です。 私は中学以来、この単語は「手に持つ」というニュアンスを持っていました。 現に辞書を見ても最初は必ず「持つ」と手へんの字が出てきますし、ある辞書でははっきり「手に持つ」と出ていました。
"have"を「手に持つ」という意味で使うのは、アメリカ人でも一生にそう何度もあると思えません。だから、"I have a dinner." なんて言葉にでくわすと、何と英語というのは訳のわからん言葉やと思ってしまうのです。そこで、ネイティブのアメリカ人に、「"have"とはどういう感覚なのか?」と聞いてみました。仲々言葉で表すのは難しいのですが、「自分のものにする」という感覚らしいので、やっと辞書の「所有を表わす」という説明が理解できました。 従って、 dinner を have するということは、「摂取」という言葉が一番近いのではないかと思います。 一般的には「ある」という訳が最も近い。 もっとも、当のアメリカ人はこんなこと考えながら使っているのではないので、もう少し感覚的な所で理解しないと本当にわかったことにはならないでしょう。でも、これで何となくわかったのではないでしょうか? 現在完了の have や "have to" の have。 みんな同じであるはずです。
**** 一生に1回も使わない英文を教えるより・・・
have は自分で誤解していた所があったのでしょうがないとしても、仮定法なんて名前、つけて教えた人を、私は憎みます。 Would、 should、 could、 might なんて、一生のうち1回も使わへんのと違うかと思っていたら、日常会話ではいわゆる仮定法で使う助動詞のオンパレード。 「もし羽があったら、空を飛べるのに」なんて一生に1回も使わない文章を教えるより、「できたらお願いします」的な丁寧語として助動詞を教えてもらった方がよっぽど役に立ちます。 英語には敬語がないので、丁寧語もないと勘違いしている人は多いと思いますが、アメリカ人でも助動詞を工夫して丁寧語をよく使います。
ここで一つ、きれいな丁寧語をお教えします。何かして欲しい時、何と言いますか? “Can I 〜 ?“ ですか? それとも "May I 〜 ? ” ですか? 実はこの間、ネイティブのアメリカ人と飛行機の中で、スチュワーデスに何か頼む時どう言うのが最も正しいのか? という議論になって、“Can I 〜 ?“ はぞんざい過ぎる。 "May I 〜 ? ”は許可をもらう言い方なのでおかしい。 従って、"Could l 〜 ? " が正しい。 ですから、何か欲しい時は、" Could I have 〜 ?”と言うのが正しいという結論になりました。あんまり若い人が言うとバカ丁寧で変ですが、オジさんが使うと仲々のものです。 この間、早速使ってみたら、スチュワーデスに "Sure!" と返事されてしまいました。この "Sure!" というのは、「もちろん!」とか「いいですよ」の意味で日常よく使いますが、自分では仲々使えない。タイミングが大切です。
**** あいさつの表現を紹介します
あいさつなんかでも、中学で教えてもらったのとは違っています。 " I'm glad to see you " なんてあいさつ1回も聞いたことがない。 " How do you do? " も相手が大会社の役員以上でないと使いません。 多いのは、初対面で " Nice to meet you. " 2回目からは、" How are you? " “ Hello " 等。それに対する返事も、 " I'm fine. Thank you." なんてまどろっこしいことは言わずに、単に " Good " とか " Very good ”とか。女性は、" Fine " を使うようです。 もっと親しくなると " How are you doing? ”。この返事も、たいがい " Good " ですませます。 ジョークを入れるなら "Not so good" とか答えます。 一度、" I'm sick " なんて言われたことがありました。
陽気なアメリカ人なら、初対面でも " How are you doing? " と言ってきますので、返事は "good "しかありません。こう考えると " How do you do? " は変な言い方で、" How are you doing? " と大して変わらないのになぜ丁寧な言い方なのか、いまだにナゾです。 ネイティブのアメリカ人に聞いてもわかりませんでした。
あいさつで思い出しましたが、日本人はあいさつの時、名刺を渡すクセがついているので、相手が握手しようと手を出したとたん名刺を出して、アタフタしてる場面が多くありますが、あいさつは一種の面接です。 しっかり相手を見てしっかり自分の名前を言うことが大切。 名刺なんかあとでトランプのカードよろしく配るのです。 机の反対側にいる人へ、手裏剣よろしくヒュッと投げて、相手の方へ向けて落せたらベスト。 というのは冗談ですが、こういう雰囲気がありますね。 もっとも最近は、アメリカ人も日本式マナーを勉強していて(名刺の渡し方なんてトレーニングを受けているのかどうか知りませんが)、握手しようと手を出したら名刺を渡された、なんてこともたまにはあります。 相手を見て、柔軟に対応方法を決めましょう。
いつもアメリカ人にかなわないと思うのは、ミーティングの後、別れる時に " Thank you, Mr. 〜 . " と必ず名前を憶えていて言うことです。 日本人の名前なんか憶えにくかろうと思うのですが、たいがいのアメリカ人はトレーニングしているのでしょうが、ちゃんと名前を憶えています。 今度からはミーティングそっちのけで名刺見ながら憶えて言ってやろうと決意を固めております。
**** あいまいな日本語には注意
日本語と英語で最も違和感のあるのは、あいまいな言い方です。日本語風に英語表現すると、どうしてもあいまいな言い方をしないとなんとなく気持ちが悪くてつい、" Probably " とか " Smething like that " とか、ひどくなると " may be " を連発することになります。 ちなみに英語では ”may be ”はめったに使いません。使う時はよほど否定的な時で、ニュアンスとしては「まあそういうことがあってもおかしくないね」程度です。我々が,May be を使いたくなるような場面では " Could ” がよく使われます。" May be " の代わりに " Could be " と言えば、ビシッっと決まりますよ。
つい先日のことですが、思いきり日本語で日本語風の手紙を書いて、英語に訳そうとしましたが、結果は似ても似つかぬ文章になってしまいました。あいまいな部分が全部けしとんで、断定的になっているので何か気持ちがすっきりしない。 ネイティブスピーカと打ち合せたのですが、そういうあいまいな言い方は特におかしい訳ではないが、通常はそういう言い方はしないとのこと。 いくら後で訳すからと言って、完全に無視してたらうまく行かないという好例でした。 通訳がついているからと本気で日本語をしゃべると正確には、相手に伝わりませんよ。変になってもいいから直訳風の日本語しゃべる努力が必要です。
*** 外国人を意識した日本語が話せますか?
英語はいろんな国で、それなりに変形されて話されているので、海外とつき合いの多いアメリカ人は自分たちの英語と共通語とも言うべき英語の2つを使い分けています。 バックグラウンドの差もあって彼らのネイティブの英語はほとんどわからなくて、共通語ならわかるということが多くあります。 最近は日本にも日本語のわかる外国人が多くいますが、我々は仲々、共通日本語とでも言うべきものを話すことができずに、ついバーッと日常会話用の(しかも私の場合は大阪弁の)日本語をしゃぺってしまうので、相手は仲々理解できません。 あげくのはては日本語アレルギーになって、日本語を使うのが嫌、ということになってしまいます。 日本人にとっての国際化とは、単に外国語ができることだけでなく、日本語をきっちりしゃべれるのも大切なファクタと思います。もし日本語の TOEIC みたいなのがあったら、意外に点数低いのかも知れませんヨ!