エドガー・アラン・ポーの「黄金虫」
暗号を題材にした文学でもっとも有名なのは、エドガー・アラン・ポーが1843年に書いた「黄金虫」では無いでしょうか? この他にはコナンドイルの「踊る人形」も有名です。 これらの暗号は、もっとも簡単な「換字式」と呼ばれ、「各文字や単語を別の信号や記号に置き換える」ものです。 また、換字の一種ではありますがいくつか字をずらす「スライド式」もあります。 これで有名なものに「シーザーの暗号」があります。 最近で有名なのは日本海軍の「D暗号」。 理論的には解読不可能なはずのものが結局はアメリカ側に解読されていて、重要な情報が筒抜けになり敗戦の大きな要因になったと言われています。
- 黄金虫の暗号文
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- 解読文(平文)
'A good glass in the bishop's hostel in the devil's --twenty-one degrees and thirteen minutes --northeast and by north --main branch seventh limb east side --shoot from the left eye of the death's-head --abee-line from the tree through the shot fifty feet out.'
黄金虫の暗号文は結局、換字式と言うことが推定され、英字の中でもっとも出現頻度の高いものは「e」である、と言うところから全てが解読されてしまいます。
以上のようなやり方は、鍵やアルゴリズムが分かってしまえば比較的簡単に解けます。 もっと複雑なものでも、最近のコンピュータの進歩のためにほとんど解けるようになってきました。 計算時間を無視すればどのような暗号でも解けないものは無いと言って良いでしょう。 従って、最近ではいかに計算を複雑にして現実の時間の中で解けるか? と言う様な考え方になってきています。
また、暗号というセキュリティは「必要とする資源(時間、お金など)」 と「得られる安全性」とのトレードオフです。 1万円札の偽造があっても、1円玉の偽造が無いのはかかる費用と得られる成果とのトレードオフが成り立たないからです。 従って、1万円札には非常に多くの偽造対策が取られていますが、1円玉にはそう言う努力は払われていません。
これと同じで、重要な情報には時間をかけて高度な暗号を施し、重要ではない情報にはそれなりの努力を払うと言う考えが必要です。 また、情報には時間的な有効性があり、時間がある程度経つとその時は重要でも時間が経てば全く重要ではない情報に変わる事もあります。
従って、情報の秘匿はある一定の時間だけ第3者に対して公開できない様にする、時間が経てばいずれは分かる、と言う考え方がポイントです。 いずれにしても解読できない暗号は無いと言うことです。
現在有力とされている「RSA方式」暗号化技術も、最近では40ビットのものを学生がPCで2時間で解いてしまったと言う事や、ごく最近では56ビットの暗号も解けたと言う例もあります。 また解読の技術も年々進んで10数年前には解読不可能と思われていたDES暗号ですら容易に解けてしまって、現在では何重にもDES暗号をかけて解読に時間がかかるようにしています。
つい最近ではアメリカ商務省が128ビットの暗号技術を含んだ製品の輸出を許可したと言うことが報道されています。 1024ビットでも今世紀中が寿命という見る人もいます。 いずれにしてもコンピュータの性能向上と秘匿すべき情報の時間的余裕との関係でどれくらいの強度の暗号が必要なのかが決定できますし、別の見方をすると絶対的な暗号化技術と言うのは存在しないと考えて良いでしょう。
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