インターネットのビジネス利用
平成10年度第1回情報化プラザより
講師 オム□ン株式会社 技術本部 増田 清 氏
■インターネットは本当に有効か?
ここ数年のうちに、企業内のインターネット利用はハードウェア、ソフトウェアの技術面において大変レベルアップしてきましたが、今後はそれをビジネスに活用するためのマネージンク層の立場から悩みや問題点が検討され、ビジネスヘの積極的な利用が図られていくべきではないかと思います。
そこで一度、インターネットはすべての場面で本当に役立つのかどうか、問い直してみる必要があります。まず、テレビと比べた場合、音声や動画の質、チャンネルの切り替え速度などにおいてはテレビの方が断然に優れていて、インターネットではとてもかないません。これは、テレビがどちらかといえば受動的に使われるのに対してインターネットの場合は能動的なこととも関連しています。また、その他の通信手段などと比べても、電話、携帯電話、FAXなどの方が場合によっては便利なこともあり、何でもかんでもインターネットがいいという訳ではありません。
結局のところ、インターネットの重要なポイントは双方向、インタラクティブであるという点であり、このことが「ビジネスのネタ」になったり「仕事のやり方の変革」につながってくるのだといえます。その中でも私が最も重要だと考えているのが、現場とマネジメントとの密接な連携のツールとして利用すること。電子メールの場合なら、文書の配布だけでなく、出張帰りの電車の中でレポートを作成して、関係者すべてに配布するといった具合に、もっと迅速かつ頻繁な情報のやりとりのために使いこなしていくことが必要なのではないてしようか。次の週1こなってから提出するのであれぱ、FAXを使っても支障はない訳ですから。
■全社間の接続とデータ伝送
会社間を接続するやり方にはQR、EDI、ECなどがあり、統一されたフォーマットとしてはCALSが提案されています。
また、インターネットによるデータ伝送にも有効な場合とそうでない場合があり、単なる連絡については電話やFAXでも十分ですし、大容量のデータを送るにはコスト的にも時間的にも宅急便の方が場合によっては有利です。
インターネットによるテータ伝送が有効なのは、細かいテータが数多くあり、各々の取引をその都度行う場合や、双方向性を生かして共同作業で製品を完成させる場合でアメりカにおける前者の例をいくつかお話しします。
まず、デル社では、コンピュータの受注を工場に直結させて注文生産を行ったり、自社の組立工場の周囲を協力会社の工場で囲んで直接廊下でつないだサテライト型工場を設けたり、トヨタの看板方式をより徹底させた電子看板方式ともいえるやり方をとっています。
また、FeDexという宅配会社ては、一度登録しておけば後は発送元と発送先だけで申し込むことができ、受注を受けた側が伝票処理をしなくても配送会社に直接指示が行くようになっています。
その他、店舗を一切もたず手続きのほとんどを Web上で行っているFNBという銀行などもありますが、これは単にコンピュータによって人手が要らなくなるということだけでなく、より重要な仕事への人材の集中や素早いレスポンスが可能になることを示しています。
■他社接続の方法と守秘性の問題
会社間の接続方法を選ぶ際には、コスト、柔軟性、守秘性、確実性などの重要なポイントについてよく考える必要があります。
まずISDNや公衆回線のダイヤルアップの場合、確実性がなく、守秘性にも若干の問題があります。また、専用線の場合、守秘性はかなり高いものの、相手先が限定されて柔軟性に乏しく非常に高コストで、専用社内ネットワークにいたっては超がつくほど高価なものになります。 その点、インターネットを利用したVPN(Virtual Prlvate Network)だと柔軟性やコストの問題はほとんどなく、確実性についても常時接続の回線を使えぱ大丈夫。 あとは守秘性の確保です。
しかしながら、より厳密には専用線においても完全に侵入や盗聴の可能性がないわけではなく、インターネットの場合はさらに危険性は高いというのが実情。道路でいえばインターネットは大通り、専用線は私道であり、大通りでは何が起きても不思議ではないということです。
現時点でほぼ確実なのは、正しく設定されたファイアーウォールと暗号化サーバを設置してセキュリティエリアを形成するというやり方で、これが破られたりしたらそのこと自体がニュースしなるという位の代物です。しかし、100%完全な暗号というものはなく、過去の蓄積が多い企業ほどファイアーウォールの設定は困難ですので、利便性と安全性のいずれかを選択しなくてはなりません。また、暗号には時間との戦いという側面があり、守秘すべき期間内に解かれなけれぱそれでいいという考え方も必要です。
こういった暗号の種類や技術的な部分、またどのような情報がどこへ流れているかを知っておくことは管理者にとって非常に重要ですので、今後は例えぱ、労働基準法の知識などと同様に必須事項になってくるのではないでしょうか。
■VPNで何ができるか
それではVPNというもので一体どんなことができるかといいますと、まず、オフィスが何カ所かに分かれている場合でも、専用線をわざわざ引かなくてもWebと電子メールだけで共同作業が可能になります。また、SOH0(Small office Home Office)のように自宅やリゾートオフィスで仕事をする場合や、クライアントと共同でものをつくっていく場合のやりとりにも有効であり、暗号化を施して守秘性さえ守れぱ、時間と場所に左右されない非常に便利な手段といえます。すべての必要テータが社内のイントラネットに蓄積されていると出張先から見れないという問題もありますが、急がない情報はメールで概要だけ伝えるという具合に使い分けるとよいでしよう。
そして、ビジネスへの本格的な活用ということではBPR(Business Process Re-engenieering)。 何年か前に提唱されて現在のアメリカの好景気の牽引力となったともいわれるこの手法では、「みんなで協力して物事をやりましよう」「情報技術を活用して仕事を効率化しましよう」といったことが述べられていたのですが、日本では単なるリストラと混同されて、あまり流行りませんでした。しかし、今日の目で見直せぱ非常に興味深く、参考になるところも大きいと思われます。重要なのは「仕事の改善より革新を」という点であり、何%か良くするのではなく、縦のものを横に、横のものを縦にというように仕事のやり方そのものを変えてしまうこと。不必要であれぱ伝票を書くのをやめる、もしくはお客様に書いていただくというのも1つの手であり、その事がメリットにつながれば決して大変な負担をおかけすることにはならないとも考えられるのではないでしょうか。
日本の現在の経済状態には様々な理由があり、いくつもの大きな問題が重なり合っているわけですが、アメリカの状況と比較してみれぱ、まだまだインターネット技術を有効に活用していく余地、必要性があるように思えます。
■電子メールの天国と地獄
最後に電子メールとは何かと考えてみますと、文書配信ツールとして認識している人が多いようです。実際、これまでに比べて文書の配信がはるかに楽になり、大量に送信するのにも便利になりました。しかし、本来の電子メールのメリットを最大限に活かす事が重要です。
また、現在のように大量の情報が世の中に氾濫してくると受ける側がどのように扱っていくかが重要で、私としては、すべての情報を集めるのではなく大切な物以外はどんどん捨てていくというように、おおらかに構えていった方がいいようもに思えます。
一方で、発信する重要データにはやはり暗号化が必要。電子メールはハガキと同じかそれ以上に見られやすいものであり、宛先ごとにまとめて引き出すことも可能なのです。ともあれ、社内で上位の人ほどメールの洪水でパニック状態に陥りがちですから、“分類はするな、整理はしろ”という原則をキッチリと守っていかないと大変です。マネージャーの本質は「情報操作職人」という面もありますので、職人の仕事は道具7割、技術3割といわれるように自分に合った電子メール・ツールをしっかりと選ぶ必要があるでしょう。
またメーリングリストで有効な議論をしていくには、あまり複雑になりすぎないようにどこかで打ち切っていくことが大切。互いに顔を知らない者同士で誤解が始まり、罵詈雑言のぶつけ合いになってしまいますので、ネチケットを遵守していくことも必要です。内容が長いものはWeb上にのせて、急ぎのものだけメールで送るという具合に使い分けていきたいものです。 ■